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スイングジャーナル 2002年7月号より
森山威男CD「森」ゴールドディスク受賞告知記事

 

前作で芽生えた森山威男の新たな魅力は
本作で完全開花を遂げた

昨年、渋谷毅とのデュオ「しーそー」で本誌ディスク大賞《日本ジャズ賞》に輝いた森山威男の新作が2作同時にリリースされる。それぞれ『森』と『山』とタイトルされたアルバムには、森山ドラムの真髄“閃光と轟音のドラム”と“歌うドラム”の二つが融合して、より自由に自然体でリズムを紡ぎ出す森山の姿がある。今回はスロー・ナンバーを中心に取り上げた『森』が本誌《ゴールドディスク》に選定された。


【まだまだ進化する森山のドラム】

 森山ドラムの魅力の真髄は、まず第一に“閃光と轟音のドラム”にある。これは何といっても、1967年9月から75年大晦日まで在籍した山下洋輔トリオにそのベースがある。この時にパワーとスピードで豪快に疾走する森山独自のドラムが育てられたといってよい。特にその最大のポイントは足技にあると思う。日本人のドラマーは、えてして上半身が勝っていて下半身が弱い。従って手技は決して外国勢に劣らないが、ハイハットの切れ味やバスドラの迫力、といったものではかなわない。強力な足技をみせられるのは森山威男だけではないかと思う。そしてこんな森山の魅力は、ライブで味わうのが一番だが、山下トリオ時代をはじめとする多くのアルバムでも感得できるだろう。

 森山ドラムの第2の魅力は“歌うドラム”である。これは、圧倒するようなエネルギッシュな演奏で聴く者を高揚させた後、一転心に染み入るような美しい音で綴るドラムの魅力である。それは哀歓を帯びた抒情性を感じさせる演奏であり、懐かしい日本の歌を思い起こさせる。こうした“歌うドラム”の魅力が加わり始めたのは、山下トリオ退団後、板橋文夫 (p)、望月英明 (b) + サックスで自己カルテットを組み始めてからである。アルバムでいえば『スマイル』(81年) で大きく拡がり、『ライブ・アット・ラブリー』(91年) を経て、遂に1枚全部がスロー・バラードの『虹の彼方に』(94年) に至るラインである。この魅力作りでは、ピアノの板橋の参加による所も大きい。彼の作った美しいスロー・バラード「渡良瀬」「グッドバイ」の2曲は森山にとって重要なレパートリーとなり、中核曲となった。

 最近この“歌うドラム”の魅力に深化が感じられる。それは昨年度の本誌ディスク大賞《日本ジャズ賞》の受賞作『しーそー』においてである。渋谷毅 (p) とのデュオ作品であるが、ここで森山は極めて自然体で渋谷のピアノに対応し、シンプルに自由に歌っている。それは歌うというより詩を口ずさんでいるかのようである。私はそこに森山ドラムの第3の魅力“自由なドラム”の芽が生まれつつあるのではないかと感じた。そして、ここに新作『森』の登場、その新たな魅力に対する思いは確実となった。これまでは、曲によって“閃光と轟音のドラム”の魅力と“歌うドラム”の魅力は分けられ、その対照が森山作品のポイントとなってきていた。しかし、今の森山のプレイはもっと自由になっている。一つの曲の中で、例えそれがスロー・バラードであろうと熱く激しいドラムに入っていってしまうし、またその逆もある。極めて自然体で瞬間瞬間自由に音楽に対応するのだ。新しい魅力の確かな展開といってよい。


【最高の条件の下で生まれた傑作】

 新作『森』は、森山がこの1月に第27回南里文雄賞を受賞した記念に作られたアルバムである。録音前、森山は「今度はみんなのよく知ってる曲をやりたい」と言っていた。ただ実際の曲目を見ると、必ずしもそうではない。どうしてですか、と尋ねると、「それはジョージ・ガゾーンが参加することになったからです」との答えであった。ジョージ・ガゾーン、現在4つの大学で教鞭をとり、21世紀のジャズを推進する1人として注目されているテナー奏者である。二人は昨年暮の名古屋の“ジャズ・イン・ラブリー”での森山のライブですっかり意気投合してしまった。ガゾーンは森山を「ダイナミズムのある、音楽がよくわかっているドラマー」と極めて高い評価をする一方、森山の方も「どうして今までこうした外人とやったことがなかったのか!」と語る感激振りだったという。3月2〜3日の東京岩本町の“TUC”での「ジョン・コルトレーン生誕75周年記念ライブ」でも共演、そこで森山はガゾーンを「僕の兄弟のような男です」と紹介するほどであった。これからのガゾーンは教育者としてよりプレイを中心に活動したいということで、森山とも新ユニットを結成して、日本とNYで年1回ずつくらい共演していく計画だという。そんなガゾーンがスケジュールを何とかやりくりして冒頭の2曲に参加した。それが森山を大胆にし解放した。他のメンバーも、森山の近作『テイク・ゼロ』 (2000年) 『森山組 信正見参』 (2001年) などで一緒にやったレギュラーの面 々で、安心して共演している。録音されたのは、森山の恩人で本盤のプロデューサーでもある岐阜県多治見市の医師、藤井修照氏の個人スタジオだ。

 こうした最高の状況の下で傑作アルバム『森』は生まれた。当初の構想とは少し変化したが、基本的にはスロー・ナンバー中心の作品であることは変わりない。1曲目は「ザ・イミグラント」。これは映画「ゴッドファーザー」からの曲で、ガゾーンが提案し、森山が気にいったもの。いかにも映画音楽らしいテーマが物悲しげに美しく奏されるが、もうその時から森山のドラムが積極的に前に出て絡み合う。いつもと違うと感じさせる。全篇、森山が実に自由に動き回る。2曲目「グラチチュード」。元メンバーの井上淑彦の作品。1曲目とは逆にガゾーンが聴いてやりたいと言った曲。ガゾーンと音川のテナー2管。メロディは音川が吹き、ガゾーンがアドリブをとる。森山はブラッシだ。ゆったりと歌う。しかし、少しでも音の隙間があると、森山はぐんぐん切り込んでいく。その自由でいて緊張感のあるガゾーンとの絡みが聴き物。3曲目「イン・ア・センチメンタル・ムード」。音川のテナーをフィーチャーしている。ダルな美しさをみせる曲で、そこをすっきりした軽快なサポートで走る森山のブラッシ演奏が印象的。4曲目「朝日のあたる家」。森山の大好きな曲。ゆったりしたテーマ〜ピアノ・ソロと続いた後、ソプラノとドラムのフリーキーなデュオが始まるあたりから演奏が解放され、スピードは一気に高まっていく。森山のドラムが前面 に出てがっちりサックスを受けとめ、また鼓舞する。森山の“閃光と轟音のドラム”のソロが垣間見られる。またこの曲の流れの自在性はまさに最近の森山の“自由なドラム”の面 目躍如である。5曲目「ホール・イン・ザ・ワールド」。音川の作った曲。ミディアム・テンポなのだが面 白い曲なので収録したという。ピアノの熱いソロ、それを受けるようにこの曲でも森山の激しいドラムが展開する。スロー・ナンバー集にこうした曲を入れるのも、最近の森山の精神の余裕振りを示すものかもしれない。

 レコーディングを終えて森山は語る。「このアルバムのレコーディングは十二分に楽しんだ感じがする。100%満足している。どの曲も一発勝負だったから録音もとても早かった。同じバラードばかりのアルバム『虹の彼方に』を出した頃と比較してみても、今はずっとフリーになっているし、ワイルドになっている。バラードだからこうあるべきというのではなくて、バラードだっていけるところがあったらいってしまっていいじゃないか、みたいな思い切りが今はある。そして、そうした自分らしいドラムをやってしまおうと考えたのはこの現在のメンバーになってからのことのような気がする。これからもっとミュージシャンとして練れていけば、音や手数の多さではなくて、何か別 の意味での激しさを出していきたいと思う。その方法論を模索したい。例えば人がどうやっていても、自分は自分の思いで、スパッといってしまうみたいな。裏で物語りを作っていくとでもいうのかな。今度のアルバムでも、2曲目や4曲目の後半あたりに少しそんなことができたかなと思う」。

 ところで森山はこの『森』と同時にもう1枚『山』というアルバムを録音した。両者あわせて「森山」というわけである。『森』がスロー・ナンバーを中心としていたのに対し、『山』はアップ・テンポでよりエネルギッシュな演奏を集めた作品である。「ドラマーだから音の大きさや激しさはやはり望むところ。こちらも思い入れのすごくこもった好きな作品だ」という。ぜひ併せて聴いてほしい。
                                   (藤井健夫)

 


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